参加メモその3:読書の森(松原市民松原図書館)見学会+シンポジウム
2020年2月20日の松原市民松原図書館見学会+シンポジウム、参加メモその3。その1とその2もあります。
当日聞き取れた範囲、書き留めた範囲のメモです。正確かどうか曖昧な部分には(?)を入れるなどしています。
・第二部 シンポジウム「これからの公共(仮)」
(登壇者)※敬称略
藤原徹平(フジワラテッペイアーキテクツラボ)
畝森泰行(畝森泰行建築設計事務所)
高野洋平・森田祥子(MARU。architecture)
高野氏(MARU。architecture):
第一部のおさらい(参照:参加メモその1)
延床面積3000平米弱。
外壁の型枠に荒いベニヤ板を使用、ムラが最初からできる(?)効果がある。建築当初ぴかぴかだった外観が経年劣化する、ということが起こらないようにした。
森田氏(MARU。architecture):
閉架書庫は手動の集密書架。閉架書庫を視認できる造りは、MARU。architectureではよく提案する。
畝森氏(畝森泰行建築設計事務所):
(高野氏の前振り:「これからの公共」がテーマ。建築がまちに、公共のあり方にどう関わっていくのか、などを議論したい)
有名なイタリア・シエナのカンポ広場がある。いろいろな人がいろいろなことをして過ごしているけれど、全体は一つの場として成立している。そんな場所を作りたい。
福島県須賀川市の市民交流センター*1を手がけた。建物の周りにテラスを多数つくった。(東日本大震災の被害で)寂れたまちが、テラスと人が見えることで元気づくのではないか、と考えた。設計前のワークショップで、図書館・生涯学習支援・子育て支援の縦割り機能区分ではだめだと気づいた。それぞれの場で行われる活動を「しらべる」「であう」「はぐくむ」など動詞に置き換え、フロアにおいて融合する、ゆるくゾーニングすることを考えた。
高知県須崎市の市民施設計画には、企画段階から関わっている。市の特徴、インフラ、交通網、防災計画、既存の文化施設や商業地などとの距離・アクセス・関係性を考慮し、候補地と施設の機能を考えている。
藤原氏(フジワラテッペイアーキテクツラボ):
大阪府泉大津市の図書館を設計中。
隈事務所にいたころから多くの公共施設を手がけた。「これからの公共は脱施設化していく。」と思っていた。そんなところに泉大津市のコンペを知った。市長がYouTubeで1時間くらいコンペ募集について話していた。あくまで地域を問題にしており、建築と施設を問題にしていなかった。熱意を感じた。こちらも建築にとらわれていてはいけない。
脱施設化のキーファクター:
- 環境と習慣の関係(国や地域による差。例えば野外でお茶を飲む文化の有無、自転車によく乗る地域と乗らない地域、など)
- 地域独自の活動
- 建築と都市(環境)を横断する要素
泉大津でやっていること:
- まちを知る
- これからの建築(図書館)をつくる
泉大津は新築ではなくリノベーションなので、ちょうど取り組めている。新築だと建築計画が複雑すぎて、まちを知っても構造を変えられないことが多い。
ワークショップ文化は育ったが、近年変化を感じている。設計者がまちを知るワークショップはとても良いと思っている。しかし、設計の希望を聞くとか、基本計画と基本設計(?)のギャップを埋めるようなワークショップは行政の仕事と考えている。
まちの物語を知る+それを設計に織り込む。
泉大津の持っている地形的要素:港町のもつ大らかさ。
図書館は3500平米の1フロア、L字形。
まちには飲食店の通りも産業通りも昔の街道もある。図書館にもまちの空間を持ち込み、異分野資料の通路を隣り合わせることなどを行った。
まちに常駐する設計分室を作ることも大事。住民と話す、出張図書館、まち歩きフィールドワーク(市民発案、分室はサポート)などを実施。
(現在の)希望:市民と建築家とリサーチャーで、もう一つ「まち丸ごと図書館」を作れないか
ディスカッション
事業スキーム
・設計同士でチームを組むことについて
畝森氏:
須賀川市の場合、40歳以下+実績ある事務所の人という条件があった。つまり建った後のことも考えてほしいということ。設計・建築中も念頭に置いたし、今もアドバイザーとして毎年会議に参加している。
チームでの難しさは、価値観が異なる人同士どうすり合わせるか。場合によっては設計者の個性がなくなっていくこともある。公共施設はいろいろな人がいろいろな思いで使うし、健常者も障がいを持つ人も使う。設計者はいろいろな視点で考える必要がある。チームで役割分担はせず、いろいろな人で同じことに取り組む。
藤原氏:
音楽でいうレーベルみたいな、小集団が大事と思っている。プロジェクトを進めるチーム(小集団)のデザインがキー。組み合わさった小集団によっては、クライアントの要求に必ずしも合わないこともあったけれど、つくっている時はハッピーだった。
・自治体は規模によって、建築のノウハウに差があったり、発注までのスキームが違う。自治体との座組みの仕方については?
高野氏:
土佐市(人口約28000人)だと公共施設の建築自体が数十年に1度で、自治体側にあまりノウハウがない。企画段階から関わる。
畝森氏:
自治体が施主の場合、(設計者と)話す相手が限られる。住宅の場合、施主は1人で要望を100%把握できる。公共施設の場合はワークショップをやっても話せるのは数百人程度。話せていない9割の住民が何を望んでいるのか、リサーチをもとに想像しながらつくらないといけない。
藤原氏:
建築家がまちを知ることはとても良いこと。しかしそれと、作った建築が良いものかは別の話(? この辺りあまりメモできなかった)
良い建築を作っても、住民が「我がまちのもの」と思ってくれなかったら駄目。建物が建つことを住民が「自分ごと」と捉えてくれなかったら駄目。
行政が熱心でも、そもそも行政と市民の間に溝があると、設計家はその溝に落ちてしまう。溝の存在や溝の理由を理解する頃には、たいてい設計が終わっている。溝の存在に早く気づける秘訣があれば知りたい。
須賀川市の話を聞くと、凄まじい数のワークショップをやって、市民と行政も一枚岩ではなく反対派もいたと聞いた。自分もそういうところをちゃんとしないと、と思った。公共的正義感(?)、リサーチで見た地域の文化・価値をどういう形でこの建築に投影しているのか、という思想をもっとぶつけて提案する方がいいなと。
建築家はけして金もうけのためにやっているのではなく、のちの時代に何を残すか、という職能的責任感を持ってやっている。ほとんど一般には伝わっていないけれど。
畝森氏:
須賀川には(市民交流センター建設のため)縦割りの課を統合するプロジェクト室を作ってと要請した。赴任した室長は反対派で、機能融合なんていらない、普通の積層建築を建ててくれと言われた。「テラスで被災地を元気に」という提案をしたら、「被災地の何をわかっているのか」という趣旨のことも言われた。
それから先進的な施設を数十ヶ所一緒に見に行って、膝を詰めて話し合ったらわかってくれた。人間同士が言葉で話すことが必要。
・那須塩原*2はとても背景的。松原はもう少し個性が強いが、「背景になる建物」という点について
藤原氏:
今後の時代には、背景になる建築でないといけない。まちがもうぼろぼろだから、中心になるような建物は駄目。
美術の先生と話すと、「建築家は過去すべての建築家を称賛して、批判しない。美術家は批判する芸術家と称賛する芸術家が必ずいる」「美術を愛してしまうと美術の批評、研究はできない」という。建築家は建築家コミュニティで収まってしまっている。
時には背景になれる、ということが現代建築には必要だと思う。
畝森氏:
背景であり、その建物における体験をデザインできているかが重要だと思う。松原は、外観は馴染んでいると思う。背景的。建物内が体験をデザインできているか、については疑問。
藤原氏:
壁の穴(開口部)から外の池を見る体験は良い。壁を貫通する認識。古墳を外から見る時、中には入っていけないけど認識は堀の向こうに飛んでいるし、向こう側から鳥の声が聞こえたりする。人の認識は外と中を飛び越えている。
松原(図書館の周囲)の池の向こうの家から、「読書の森」の中の活動を認識できるように、活動をデザインしていけたら良い。
設計家が活動もデザインしたり、使われ方にコミットしていかないと、本当にハコモノになってしまって犯罪に近い。
質疑応答
1. 畝森氏は須賀川に引き続きコミットしていて素晴らしいと思う。高野氏は今後、松原の図書館に関わる予定は?
A. TRCさんとは設計の途中、指定管理者による運営が決まったところから関わっている。今後発展していったらいいと思っている。
2. (質問をメモしきれず。回答のみ)
A. 畝森氏:図書館は建築の中でも難しい。時間とともに変化する。図書館学に「図書館は成長する有機体」という言葉がある。固定化するような建築と書架は良くない。正解は自分の中でもまだないが。
藤原氏:泉大津市のコンペを取った後、図書館長とアドバイザーの専門家2人から、書架配置にかなり修正の指摘を受けた。使う側の視点もだし、並べる人の気持ちも大切。「図書館の設計って難しい」と思っている。
参加しての感想
・設計者・建築家がどういう意図でこの図書館をつくったのか、というところを聞けたのは良かった。自分で見ただけではわからなかったところ、批判的に受け止めたデザインについても理解が深まる。
・これまで建築家の話を直接聞いたことが無かったので、建築家の方々に対してこれまで持っていた、勝手なイメージも変わった。建った後のこと、数十年後のこと、その建築の中でどんな活動が行われるかということにもコミットしなければならない、と考えている建築家の方も少なくはないんだな、と思った。
・(公共施設への批判があがる時)「建築家は悪者になりやすい」という言葉があった。でも建築家も、自治体や機関が発注する枠組みの中で設計をする訳で、企画構想段階から関わるか、構想が固まった後から関わるかによっても裁量が変わってくる。批判をする時には、発注者がどんな過程で議論をしたのか、基本構想をどう作ったのかも踏まえるべきなんだろう。
・ため池の中に建てる、という点は批判的に見る人が多いかもしれない。ただ出身者としては、松原市がため池の多い地域であるという記憶があるので、「防水対策は大丈夫か」という心配を抱きつつも、「松原らしい」という気持ちも生まれて全否定的な見方は持たなかった。高野氏の松原市リサーチと建築コンセプトを聞くと、市の特徴を汲みとってくれて嬉しいと感じた。
繰り返しになるけれども、建築家の人から直接話を聞けたのはとても良い機会でした。主催の関係か広報の関係か、建築関係の参加者が7割を占めていましたが、地元市民からも図書館関係者からももっと参加があれば良かったなと思いました。できれば、開館〇周年などの機会にまたやって欲しいです。
個人的には、あの建物がこれから数十年機能を維持できること、この先分館が減っていく松原市民図書館にサービス展開を頑張ってほしいこと、議論を重ねてより良い運営とサービスをしてもらいたいと願っています。