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swimlibrarianのブログ。ほぼ図書館の話題。ときどき大学の話。(たまに水泳ネタ)

参加メモその1:読書の森(松原市民松原図書館)見学会+シンポジウム

すっかり放置してたブログを久々に更新です(前回の記事が2014年…)。

旧館から新館へと移った松原市民松原図書館の、見学会+シンポジウムに参加しました。聞き取れた範囲での参加メモ。(長くて編集に時間がかかるので、まずは第一部。)

 

 

広報はWebでいくつか。

www.trc-matsubara.jparchitecturephoto.net

このイベントを知ったのは、知人がSNSで紹介していたところから。当日、市民の参加者の中には図書館に掲示されていたポスターで知った、という方もいました。

全プログラムに参加すると14:00~19:30まで、となかなか長丁場な催しでしたが、図書館の設計からサイン計画まで、手がけた人の話を直に聞ける良い機会でした。

 

 実はこの市が出身地で、子どもの頃は分館の1つに通い詰めていました。この松原図書館の旧館には数回しか行ったことがなかったのですが、やはり新しく建ったと聞けば気になったのが参加の動機です。

近年の松原市の図書館政策や新館オープンまでの経緯はほんの少しだけ聞きかじっているのですが、何か論じられるほどの情報収集はできていないのでここでは割愛します。

 

・読書の森(松原市民松原図書館)

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 2020年1月26日オープン。新館オープンにあたって愛称を募集し、新たに「読書の森」と名づけられたそうです。

場所は旧館のすぐ向かい側。周囲は市民体育館・公民館・文化センター・市民プールなど、市の文化スポーツ施設が集まっているエリアです。
当日は月に1度の休館日(第3木曜日)にあたっていました。

シンポジウム会場は3階児童フロアの、おはなし会用のスペース。階段で登ると、2階→3階への階段がエレベーターの奥に隠れていて探してしまいました。

 

・第一部 プレゼンテーション「設計のプロセス」

(登壇者)※敬称略
 高野洋平・森田祥子(MARU。architecture)

 金田充弘・荻原廣高(Arup)

 李明喜(アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg))

配布資料には設計コンセプト、フロア見取り図、館内の採光と空気の流れのモデル図が掲載されていました。
定員50名のところ、申し込みが多く100名くらいになったとのこと。
参加者は、市民中心というより建築関係の人が多いような印象でした。後で登壇者が問いかけたのを見ると、建築関係者が7割・図書館関係者1割・松原市民2割くらい。
年代は見た感じ20〜40代が多めで、男女比は7:3くらいに見えました。


事業の枠組みとしては、2017年8月、図書館設計・施工業務のプロポーザル募集があり、建築設計事務所MARU。architectureと鴻池組が約13.5億円で受注したとのこと。MARU。architectureが全体の建築計画、Arupが構造・環境計画、argが図書館計画に携わったそうです。

以下聞き取りメモ(私が聞き取れた範囲です)。

高野氏(MARU。architecture):
新館は旧館向かいのため池に引っ越した形。当初は埋め立てる計画だったが、検討の結果ため池を残して建てた。池は今も農業用水に使われている。
計画の重要事項:

  1. 永く親しまれるまちの中心施
  2. ため池という立地条件
  3. 設計・施工一体
  4. 上記を活かした図書館のあり方

立地の周りにため池と古墳が多数。巨大な古墳が住宅地に違和感無く溶けこんでいるあり方を、図書館にも重ねたいと思った。
池の中に建てるやり方は何かあるか?と考えた → 土木建造物のような厚い壁、その中に中身をつくるやり方。


水の中に建築する4つの特徴:

  1. 工期・コストが限られていた。池の水を1度抜き、図書館を建ててから水を戻したことで両立。
  2. 建物の周囲も水が循環することで、池全体の濁りとアオコ発生を防ぐ。
  3. 水を活かす。水面で冷やされた風を取りこめる、水の揺らめきと反射光が窓から入れる、夜には外へ温かい光が漏れて水面にも反射する。

厚さ60cmのコンクリート外壁で防水、図書館内の光の制御と環境負荷軽減も図っている(普通の建築物の壁厚は20cm程度)。

厚い外壁が地震力吸収の役割も持っている。
防水コンクリートの外にシート防水を施し、1階の下には排水機構も確保。館内床面は水面より高い位置にしている。

森田氏(MARU。architecture):
スキップフロアでひと繋がりの館内、回遊性がある。
3階は児童フロア、2階は雑誌ブラウジングや飲食コーナー、1階は一般開架。上が賑やかで下へと段階的に静かになる音のゾーニング

3階の窓際にはコンクリート製の大きな机。外壁と同じ素材で、外のテラスとバランスを取っている。子どもたちが本を読むほか、大きな紙を広げたりすることもできるように。

 

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2階は雑誌と飲食コーナー、自習室、閉架書庫。スキップフロアで高さを変えている。

1階開架エリアの床面は高さを下げて、入り口から全体が見渡せるようにした。視線と風の抜け方、本の並び方を意識し、ふわっとした扇型に広がるようにした。

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窓は位置と大きさを絞って、本が紫外線で焼けないように配慮。そのためガラス張りの建築にもしなかった。
全体の収容力は、一般開架8万冊・書庫18万冊・児童開架4万冊。
外壁が斜めに傾斜しているのは、道路側へ圧迫感を与えないため。ピンク系の壁色は、隣の体育館・松原図書館旧館、周囲の歩道が赤系統の色のため、馴染ませたかったから。

 

金田氏(Arup):
構造計画を担当。
「超人工的、超自然的」「建築と土木のあいだ、建築と自然のあいだ」が最初に決まっていたコンセプト。これをいかに実現するか。
図書館は大空間だけれど、大スパンでなくていい。本は大きくないから、空間はある程度区切って良い。
内部は投入堂式で考えた。外壁の厚いコンクリートと、天井や床など内部は異素材でいい。
過去に岐阜市の「みんなの森 ぎふメディアコスモス」を手がけた時、図書館の空間は大スパンでなくて良いと学んだ。
建築として「分厚い」と人が感じる厚さということで60cmの外壁にした。
コンクリートや石が外気温の影響を受けるのは厚さ40mm 40cm以下、と言われる。60cm厚にすることで館内への外気の影響低減を意図した。

 

荻原氏(Arup):
環境計画を担当。専門家としては、「水に囲まれた建築」には関心があり、手がけたかった。

ため池のチカラと環境デザイン:

・空気を冷やす
・水は熱を蓄える、温度変化があまりない
・光を促す(可視光反射)
・生活を支える雨水利用(トイレの洗浄水に使用)
・人を癒す風景


気候変動と建築・まち:2065年(45年後)の年間外気温をシミュレーション、最高39.2℃でも中が快適なように想定している。
ため池と、屋上・テラスの緑:コンピュータシミュレーションでは、周囲を0.5℃〜1℃冷やすとのデータが出た。
館内のスパイラルベンチレーション:窓から入る空気は、館内を巡回し、ずれた配置の吹き抜けのおかげで満遍なく通風。松原市は春に西風、秋に東風が吹く。春季・秋季には自然の通風が可能。書架の並びも風を遮らないように並べている。空気の流れについては、設計者同士でかなり話しあった。
床輻射冷暖房:床下に冷温水パイプを埋設、床が冷たく/暖かくなり穏やかに冷暖房。空調機による音と気流を防ぎ、省エネルギーも実現した。
差し込む自然光:閲覧席の近くに大小の窓。書架には直射日光が行かないよう工夫した。

 

李氏(arg):
図書館計画を担当。サイン計画は別の担当がいたが、本イベントに来られなかったので代わりに紹介する。
サイン:建築コンセプトが力強く、当初から揺らがず進んできた。その延長上のサイン計画。
サインコンセプト:「森の道標」
本にたどり着くためのサイン。引いた視点で見るサインと、書架の森に分け入って目的の本のガイドになるサインがある。それぞれ示す情報が違う。
書架の中の差し込みサインなど、一部はまだできていない。設計施工の範囲には入らないことなので、これから運用と共に作られる予定。本来は大きなサインから細かいサインまでが繋がらなければならない。建築と運営が分かれて発注され、つくられることのマイナス面。
書架の高い位置に大分類、目線の位置に書架ごとの分類などを設置。
設計施工一体型は、メリットもあるが「とにかく速く安く」になりがちでもある。そしてつくる過程で、建築を考えること、運営を考えること、利用する場面とが繋がりにくい。
松原市の発注過程にはargのようなつなぎ役が想定されていなかったが、MARU。architectureと鴻池組が建築枠のスキームの中でargを必要としてくれた。建築は終わったけれども、図書館の完成はまだまだこれから。