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swimlibrarianのブログ。ほぼ図書館の話題。ときどき大学の話。(たまに水泳ネタ)

見学:The Library of Congress

 

2014年7月24日、The Library of Congress(米国議会図書館)へ。

主にConservation Division(資料保存部門)を見学させていただきました。

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資料保存部門はMadison Buildingの地下にあります。「貴重書」「文書・地図」など4つのセクションがあって、スタッフは総勢30人。

(余談:LCの組織図。全体の巨大さがすごい…)

 

 

Conservator(修復士)はそれぞれ担当の図書館なりコレクションなりが決まっているそうです。私を案内してくださったJohnさんは、主にLaw Libraryのコレクションを担当。年度ごとにLaw Libraryのキュレーターと計画を立て、修復する資料の優先順を決めているとのこと。

修復材料によく使うのはやはり和紙。理由は「薄くて丈夫で柔軟だから」。機械漉きや手漉き、厚み、色などさまざまなものが揃ってました。

どうやって入手するのか聞いたら、北米にオフィスを持つ取扱店があるんだそうな。日本の業者で海外へも販売しているところはあまりないと聞いたことがあるので、確かにアメリカの業者からの方が買いやすいよね。

 

作業室の中には、修復中の貴重書がたくさん。「これは16世紀ので、あちらは15世紀…」とまるでありふれたもののように見せてくださったけど、私手も洗ってないのに触って大丈夫ですかとか、カバンそこらに引っかけやしないかとか、いろんな意味で恐縮でした。

主に使うのは和紙だけど、他の材料もいろいろ。例えば羊皮紙の地図の裂け目は、薄く削いだ羊皮紙で継いだりもする。

かと思えば、インターンのスタッフが担当していた比較的新しい革装本は、表紙の革をクロスと取りかえて、元の背表紙の写真をPhotoshopで加工・印刷した紙を貼っていた。常にオリジナルと同じ材料を使うわけではなくて、代替できるものは代替してる。

このインターンの女性には、どこで資料保存を学んだのかとか、アメリカの修復士養成についても少し教えてもらいました。彼女が卒業したのはWinterthur/University of Delaware Program in Art Conservation. Johnさんは「僕はそういう養成課程で学んでいない最後の世代」と言っていたので、ほとんどの修復士はどこかしらの養成課程で学んでいるみたい。

日本での養成体制はといえば、文化財関連の学科・大学院を持つ大学がいくつかある。あとアーカイブズ学を教えるところも含めていいのかな(文書の保存についてはある程度学ぶはず)。

文化財関連だと

アーカイブズ学だと

などなど。

他にはNPOや民間で開かれている教室。

とか、東京にもいくつかある。

このあたりのことは1回調べてまとめたいなあ。修復の業者さんから「採用した人をイチから教えるのがほとんど」と聞いたこともあるから、人材養成の体制としてはきっとまだ弱い。職人の世界に近いところもあるから、よけいに「弟子を取って仕込む」かたちに近くなりやすいのかもしれない。

 

見学は続いて「文書・地図」セクションへ。とても貴重だと言う手彩色の地図の本を見せてもらった。

ページによって制作年代が違っているのだけど、最も古い年代のページがきれいに遺っていて新しい年代のページの褪色がひどい。紙・印刷・色の質が悪いためだとはわかっているけど、褪色の原因などをいろいろ分析するために特別に時間をかけて修復しているとのことだった。

特に状態が悪いのは緑色の彩色(Johnさんは"copper green"と呼んでいた)。黒ずんだり粉をふいたようになったりして、向かいのページにまで移っている。

移ってしまった汚れは、Agarose gelというジェルシートのようなものを貼りつけて吸着させるのだそうで、これは初めて見る手法で面白かった。"agarose"は日本語だと「寒天」とか「ゲル化しやすい中性多糖」。見た目も確かに薄い寒天みたいだった。

 

あとこのセクションで面白かったのは、「日本のテクニックだよね」と紹介された仮張り板。洗浄したり裏打ちした紙を、皺を寄らせずに乾かすにはやっぱりこれが便利らしい。日本で見る仮張り板は柿渋を塗っているけど、LCにあったものは何かシートみたいなものを貼ってあった。

それと、リーフキャスティング。紙の原料液にはドイツ製のパルプを使っていて、これも初めて見た(まあ洋紙の修復には洋紙の材料使うのが、考えてみれば当たり前)。厚み・色・手触りさまざまな紙のサンプルが配合のメモ付きで揃っていて、修復対象に合わせて近い紙を作れるようになっている。

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リーフキャスティングで修復する15〜16世紀頃の手書き本も見せてもらった。何語で書かれてるのかよくわからないけどインド文字に近い感じ。リーフキャスティングマシンにはオペレーションソフトがついていて、原資料を撮影すればページの欠損部分を判別、原料液の液量を計算してくれる便利ソフト。

(余談:文字を調べた中西印刷のサイト。さらっと世界の文字125種がLOD化されてた。中西印刷さんすごい)

 

材料・道具から設備から何もかも整っていて、この記事に書ききれなかったこともたくさん。プロフェッショナルの現場、という雰囲気でいつまでもいたかった(笑) 1時間半があっという間でした。

 

 

ひととおり見せていただいた後、見学の窓口になってくださった中原さんにご挨拶のためJefferson Buildingへ。この日はLC全体のインターン学生の成果発表会が行われていました。

LCにはさまざまなインターンプログラムがあって、この発表会はアメリカ市民権を持つ学生向けのプログラム。現役学生か卒業後1年の人が対象で、10週間LCで課題に取り組んだそうです。

課題はLCの各部門から発表されたもの。部門事業に特化したものもあれば、資料保存部門の課題は部門のWebサイトのリデザインだったりと、いろいろのよう。参加したい学生は課題に対して応募、LC側の選考を経て決まるとのことでした。

このプログラムだけでも48人の学生が参加、発表会場はすごい熱気でした。東アジア部門の学生の発表を聞いてみたら流暢な日本語で話してくれて、「とても楽しいけれど10週間じゃ短い!」と話していました。

 

中原さんはこのインターンプログラムの取りまとめをされていて、ほんとに忙しい日にも関わらず見学を受け入れてくださって感謝に堪えません。案内してくださったJohnさんとともに、ランチタイムに重なると資料保存部門の人も出払ってしまうからと見学時間を配慮してくださったり、いろいろと心づかいをいただきました。

どうもありがとうございました。